IT業界で働いていると、「IT土方」という言葉を耳にすることがあります。
この言葉は、特に過酷な労働環境や単純作業が多いエンジニアたちの現実を皮肉るために使われることが多く、仕事の内容や待遇に対して不満を抱く一部の人々によって広まった俗語です。
では、「IT土方」とは具体的にどのような働き方を指し、なぜそのように揶揄されるのでしょうか。
そして、このような状況から脱却するためにはどうすればよいのかについても詳しく見ていきましょう。
1. IT土方の定義と背景
「IT土方」という言葉は、建設現場で働く肉体労働者(通称:土方)に由来しています。
つまり、肉体労働者のように、IT業界でも単純作業や過酷な労働を強いられている状況を指します。
特にシステムエンジニアやプログラマー、インフラエンジニアといった職種で使われることが多く、彼らが業務において長時間働かされる一方で、スキルやキャリアの発展が見込めないと感じる場面で、この表現が使われます。
1.1. 過酷な労働環境
IT業界において「IT土方」と呼ばれる働き方は、特にプロジェクトの納期が迫っているときやトラブル対応時に顕著になります。
システムの開発や運用には細かい調整や管理が必要であり、エラーや不具合が発生した場合には即座の対応が求められます。
その結果、夜遅くまでの残業や休日出勤が常態化しやすく、心身ともに疲弊することが多くなります。
こうした過酷な労働環境は、業界全体の構造的な問題でもあります。
プロジェクトのコスト削減や人員不足によって、少数のエンジニアが多くの業務を担わざるを得ない状況が生まれています。
1.2. 単純作業の多さ
IT土方の特徴的な要素の一つが、単純作業の多さです。
特に、プログラマーやインフラエンジニアが担当する業務には、コードの修正や設定変更といったルーチンワークが多く含まれます。
これらの作業は、経験が浅いエンジニアでもこなせる内容であることが多く、スキルアップや自己成長を感じにくい状況を生み出しています。
SES(システムエンジニアリングサービス)業界では、このような単純作業が特に多いとされており、SESで働くエンジニアたちは「駒」として扱われることが少なくありません。
顧客のプロジェクトに派遣され、短期的な業務をこなすだけで、プロジェクトの全体像や長期的なキャリア形成に関与できない場合が多いのです。
1.3. 報酬と待遇の問題
「IT土方」と呼ばれる労働者たちは、過酷な労働環境に加えて、給与や待遇に対しても不満を抱くことが多いです。
特に、長時間労働や深夜の対応などが常態化しているにもかかわらず、報酬がそれに見合っていないと感じることが少なくありません。
例えば、SES業界ではエンジニアが顧客先に常駐して働くため、自社との直接的なつながりが薄れ、給与交渉や待遇改善が難しい場合があります。
結果として、労働環境の改善が進まず、エンジニアたちが「IT土方」としての労働を続けざるを得ない状況に陥ることが多いです。
これらの問題の多くは、IT業界における「多重下請け構造」に由来しています。
例えば、顧客から1ヶ月100万円で仕事を受注し、その仕事を丸ごと下請け企業に60万円で依頼し、40万円を自社の利益とする。
更に下請け企業は、孫請起業に40万円で仕事を依頼し、20万円の利益を得る。
SIerなどのビジネスではこういった仕事が多く、孫請起業は受け取った40万円から会社の利益を抜いて20万円をエンジニアに渡す。
こういった業界構造の結果、年収300万円に満たないようなエンジニアも多数存在するのがIT土方という言葉が生まれた現況とも言えそうです。
2. IT土方とSES業界
SES(システムエンジニアリングサービス)業界は、「IT土方」という表現が特に多く使われる領域の一つです。
ESは、企業が自社のプロジェクトに技術的なサポートが必要な場合に、外部のエンジニアを派遣してもらう形態のビジネスモデルです。
SESで働くエンジニアは、クライアントの要求に応じて様々なプロジェクトに派遣されることになりますが、その労働条件や仕事内容が問題視されています。
2.1. SESエンジニアの現実
SESエンジニアの多くは、プロジェクトベースで短期間の契約を繰り返し、次々と異なる現場で働くことが求められます。
これにより、プロジェクトの中核に関わる機会が少なく、深い知識やスキルを身につけることが難しくなります。
さらに、SESエンジニアはクライアント企業の環境に合わせて作業を行うため、自分の意見や提案が反映されにくく、ただの作業者として扱われることが多いのです。
SES業界では、人手不足やコスト削減のために、未経験のエンジニアや若手エンジニアが即戦力として投入されることがあり、彼らが実際の業務でスキルを習得する機会が減っているという現実もあります。
このような状況は、エンジニア自身の成長を妨げる要因となり、「IT土方」という表現が定着する一因となっています。
2.2. キャリアアップの難しさ
SESで働くエンジニアたちが抱えるもう一つの大きな課題は、キャリアアップの機会が少ないことです。
SESはクライアントの指示に従って業務を行うため、自らの意思でプロジェクトを進めたり、新しい技術に挑戦する機会が限られています。
その結果、エンジニアたちは単調な作業に終始し、キャリアの停滞を感じることが多いです。
具体的に言うと、新しいBIツールを導入することになったとします。
そのツールをどのように活用するのか、どのツールを選ぶのかなどは、プロパーと呼ばれるお客さんの正社員が行います。
それらの新しいツールや技術の研究などを自社で行ったうえで、
「言われたとおりに設定をする」
という部分をSESに依頼します。
そうすると、単調な作業をいくつもこなす一方、SESのエンジニアに残るのは
「新しいツールの設定を変える能力」
だけです。
これでもまだ良い方で、書類のチェック業務などの場合は、更に悲惨なキャリアプランしか残らない可能性があります。
また、SES企業はエンジニアのスキルアップやキャリア形成に対するサポートが十分でないことが多く、エンジニアたちは自らの成長を自己責任で追求しなければならないというプレッシャーを感じることがあります。
このような状況下では、モチベーションの低下や退職を考えるエンジニアも少なくありません。
3. IT土方からの脱却方法
「IT土方」としての働き方から抜け出すためには、スキルアップやキャリアチェンジが不可欠です。
ここでは、IT業界でより充実したキャリアを築くために取るべきステップについて解説します。
3.1. スキルアップを目指す
まず、IT土方から抜け出すための最も効果的な方法は、スキルアップです。
特に、プログラミングの基礎だけでなく、アーキテクチャ設計やプロジェクトマネジメント、セキュリティなど、専門的なスキルを習得することが重要です。
これにより、単純作業から脱却し、より高度な業務や役職に挑戦できるようになります。
また、資格取得も有効な手段です。
例えば、AWS認定やPMP(プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル)といった資格は、転職市場での競争力を高めるのに役立ちます。
これらの資格を取得することで、単なる作業者からプロジェクトリーダーやマネージャーといった役職にステップアップできる可能性が広がります。
3.2. 転職活動を視野に入れる
IT土方から脱却するためには、より良い職場環境を求めて転職活動を行うことも有効です。
特に、SES業界から自社開発を行っている企業やプロダクト志向の企業への転職は、エンジニアとしてのキャリアアップに繋がる可能性があります。
自社で製品を開発している企業では、プロジェクトの全体像に関与できるため、業務の幅が広がり、スキルを磨く機会が増えるでしょう。
3.3. フリーランスとしての独立
また、フリーランスとして独立することも一つの選択肢です。
フリーランスであれば、プロジェクトの選定や働き方に柔軟性があり、自分のペースで仕事を進めることが可能です。
ただし、フリーランスになるには、自己管理能力や営業力が求められるため、十分な準備と計画が必要です。
4. IT土方の未来
AIや自動化技術の進展により、現在「IT土方」として扱われているような単純作業は、今後減少していく可能性があります。
高度な技術や知識を必要とする分野に特化したエンジニアが増え、IT業界全体がより専門的かつ創造的な方向に進化していくことが予想されます。
しかし、そのためにはエンジニア自身がスキルアップを怠らず、常に新しい技術に触れ続ける姿勢が求められます。
IT業界は変化が激しいため、時代の流れに遅れないようにすることが重要です。
まとめ
「IT土方」という言葉は、IT業界における過酷な労働環境や単純作業に対する不満を象徴するものです。
しかし、このような働き方から抜け出すためには、スキルアップやキャリア形成のための努力が必要です。
自らの成長を促進し、より良い労働環境を求めて行動することが、充実したキャリアを築くための第一歩となります。